世界
熱田孝高の来季の体制が発表になった。ネイションズ終了後、キャンパーでくつろいでいた彼と話したときにはまだ移籍先が決まってなくて、就職活動の真っ最中という感じだった。「大変ですよ。UKホンダと話を進めてるんだけど、どうかな。ずっとホンダでやってきたから、できれば来年もそうしたいんですけどね…。もしダメでも、他にいくつかオファーはあるんで、1番条件のいいところとで走りたいと思ってます。」と孝高。年に1,2度様子を見にやって来るボクに、「日本に帰る気持ちなんて全くないですよ。」と彼は付け加えた。
かつてのチームメイト成田 亮は、アメリカに進路を見いだしていた。孝高にとっては、彼もまた負けるわけにいかない相手。まして、アメリカも世界も先に道を開いたのは自分だという自負がある。まして、成田のいない全日本だ。今更日本に帰れるハズもない。
それからしばらくして、帰国した彼に電話を入れたら「一応決まりました。イギリスのスズキ系チームで、ホラ、レオクがいたとこです。」と交渉が成立したことを教えてくれた。ただ、翌週に控えた日本グランプリはホンダワークスからの出場となる。孝高にすれば少なからず世話になったチームだ。最後の奉公という気持ちもあったに違いない。MXingのインタビューにも移籍の話は載せないことにした。
「レオクがいたチーム」、一概には言えないが、世界選手権に参戦するチームにはある一定のフォーマットがある。それは、表彰台や優勝を狙えるエース格のライダーを中心に据え、将来有望な若手をセカンドライダーやサードライダーに置くという不文律。最終的には勝ってなんぼの世界。仮にそれができなくても「若手がこれだけ伸びた」というポジティブな成果は、スポンサーやファンに対して十分ないいわけになる。その布陣を敷くために、チームオーナーは奔走し、次の人材確保に目を光らせる。
わずか3年のグランプリキャリア、すでにメーカーの後ろ楯はない。加えて27歳という年齢、表彰台未経験というこれまでの成績…。孝高が微妙な立場にいたことは容易に想像がつく。しかし、最終戦南アGPで3名の世界チャンピオンを従えたスピード、ネイションズで見せたテクニックとスタミナがそれを翻した。ちなみにタネル・レオクは、今シーズン欠員の出たワークスにレンタルされ、度々トップ争いを展開。来季はカワサキワークスのエースライダーとして参戦することが決まっている。そのレオクを見いだした眼力が、孝高に白羽の矢を立てた。ただでさえ競争の激しいグランプリ、自らの力で、エースライダーの座をつかみ取った彼の飛躍に期待したい。
※写真はネイションズフリープラクティス中の熱田と成田。ライバル、チームメイトがディープサンドに苦戦する中、熱田は鮮やかなホールショットや猛烈な追い上げを披露し、グランプリレギュラーライダーの実力をアピールした。