INSIDE OUTSIDE「東福寺さんのこと ep1」

東福寺さん勝ちました!! 川井麻央選手の声が聞こえた気がした。ファインダーの中の視界はずっと霞んだままで、それでもこの瞬間が必ず来るとシャッターを押し続けた。
D.I.D 全日本モトクロス選手権シリーズ 2025 第4戦中国大会。東福寺さんの訃報を知ったのはちょうど1週間前。MXINGの締め切り最中で、仕事が手に付かないという状況は過去に何度か経験したけれど、ぽっかりと空いた頭の中の空洞は、広さなのか深さなのか余りにも大き過ぎて、何かで埋まる気はしなかったし、塞ごうとも思わなかった。
いつかこの日が来てしまう、それがそう遠くないということも理解はしていた。会場に着くと、毎回必ず挨拶出来ていた優しい笑顔に会えないことが多くなり、みんなの顔を見にオフヴィには来たいというご意志が叶わなくなった時に、いよいよその日が迫っているのだなと覚悟したつもりだった。
強過ぎる人だったと確信する。常人なら耐えられない辛さや苦しさを、幾度も乗り越えて来たであろうことは想像に難くない。「負けたときの悔しさは誰より強い気がします。他の人とは比べようがないけど、自分の中では常に負けることへの悔しさが勝るから、どんなに辛いことでも頑張れちゃうんです。」V9を達成したシーズンオフのインタビューで、ライバルに負けない才能は何ですか? という質問に対して、あの穏やかな笑顔で答えてくれたことを、つい昨日のことのように思い出す。
特別な人なのに、常に気さくで誰にでも優しく接してくれた。全日本の会場で、あるいはイベントで直に話したことのある人は、誰もがそう感じたのではないだろうか。九州大会なら大谷の湯、広島ならせら温泉。全日本のパドックがそのまま移動して来たような賑やかな洗い場で、偉大なチャンピオンと隣り合わせるなんてことも度々あった。夜のパドックにお邪魔してみんなでワイワイと話を伺ったり、疑問に思ったライディングの解説をして頂いたり。いつだって僕らと同じ目線で、あの穏やかな表情で相手をしてくれるものだから、ついそれが当たり前のように思ってきたけれど、余りにも偉大で大事な存在だったことを、今改めて痛感する。
東福寺さん、本当にありがとうございました。長い間、そうやってお伺いしたすごく特別な話を、HYPER MXING のスペシャルコンテンツとして、ちょっとずつ書いて行こうと思っています。ご講読頂ければ幸いです。
MXING & MXING+PLUS 木田 淑