INSIDE OUTSIDE 東福寺さんのこと ep2 「ゾーンとアリの話」

シンクロナイズドスイミングがアーティステックスイミングに名称変更されたのはつい最近のことだけれど、当時国内第一人者だった小谷実可子さんが引退して数年後だから、相当昔の話です。

小谷さんが中島 悟さんとF1の解説でご一緒した時のことをどこかの雑誌に書いていて、それがピークエクスペリエンスに関する内容だったんです。小谷さんの問いかけに対する中島さんの反応も相当面白いんですが、その内容とやりとりがすごく印象に残って、ピークエクスペリエンスという、限られたトップアスリートが経験する「頂上体験」について、ずっと気になっていました。

ピークエクスペリエンスという表現もいつの間にか使われなくなって、トップアスリートなんかが使う「ゾーンに入る」の方が、今は何かと耳にしますよね。競技中、あるいは作業中、集中力が極限まで高まって、脳内にアドレナリンだかエンドルフィンが分泌されて、幽体離脱のように競技中の自分が俯瞰で見えてしまうとか、パフォーマンスが極限まで高まる状態のことです。万年ノービスライダーで、テキトーライターの木田にはもちろんそんな経験は1度もありません。でも、そのコラムを読んだとき、東福寺さんなら絶対に経験してるだろうなと思ったんです。

SUGOだったかなぁ、たぶん土曜日の夜のパドックだったと思います。整備が終わってチーム員や保護者のみなさんとお風呂に行って、晩御飯食べてパドックに戻ってライダーたちは明日に備えて早々に就寝。翌朝に備えて休む前に、チームスタッフと親御さんたちがビールを飲みながら談笑する時間帯があって、たまたまTEの前を通ったらテントの中が盛り上がっていたので、ちょっとだけいいですかってお邪魔させてもらったんですね。で、今がチャンスだと思って東福寺さんに質問してみたわけです。

野球選手がホームラン打つ時にボールが止まって見えたとかいう、いわゆる頂上体験のことらしいんですけど、東福寺さんなら絶対にピークエクスペリエンスって状態を経験してますよね??
そしたら東福寺さん、ニッコリ笑ってこんなこと話し始めたんです。

木田さん、飯倉走ったことあるよね。前のレースでの仕様に納得がいかなくて、HRCに急遽テストを入れてもらったんですよ。ソレはこうじゃないか、ココはアレじゃなくてコッチだったんじゃないかって色々と考えて現地に入って、パーツとセッティングを変えながら走ってはピットに入ってを何度も繰り返してたら、マシンもライディングもすごくいい感じになって来て、よしこれでレースのシュミレーションやってみようって。
走りだしたらイメージした通りの走りが出来て、メカがボードに書くタイムが、コンマ何秒まで分かるんですよ。次戻ってきたらXX秒02って出るな、よし次の周回コンマ5秒上げてやるとかトライするとその通りになる。正直ちょっと気持ち悪いって言うか、不思議な気持ちもあって、でも乗ってて楽しくて。そしたらバンクで振る右コーナーのイン側にアリが見えたんですよね。そのアリ、ボクの走行ライン側にコースを横断して来る。前の周そこにいたのが今ここまで来たから、次そのまま行ったら轢いちゃうよなってコーナー入ったらやっぱりボクのライン上にいて、もう仕方ないなって数センチライン変えて避けてやったの。アリって言ってもさ、庭にいるちっちゃいヤツじゃなくて、山で見るデカイのでしたけどね(笑)。

アリの大小は関係ないでしょって笑ったんだけど、ゾーンに入るっていうのがどんな状況なのか、ノービス止まりで絶対に経験できないだろうボクに、ユーモアを交えて分かりやすく教えてくれた東福寺さんの優しさだったんだよなって、あの晩のパドックでの楽しい話を今も忘れることが出来ずにいるのでした。東福寺さんありがとうございました。

コースサイドで大塚忠和選手にアドバイスする東福寺さん。本人は怪我で欠場!? 左手にテーピングが見えています。


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