「次へのスタートは今」MXoN2025取材を終えて
何から書き出せばいいだろう。ネイションズの取材を終えて疲れ切った状態で帰国。時差ボケで案の定夜中に目が覚めてしまった。仕方なくボーッとしたアタマでSNSの画像や動画なんかを見て過ごす。ここで撮ってたのかとか、この位置からだとこの画になるのかとか。立て続けの機材トラブルで、予備のレンズしかなかった今回の取材。自分なりのベストは尽くせたかなと思う一方で、ネイションズならではのレースフォーマット、進行に対応できず、決勝はどう動いていいか分からなくて、立ち尽くしたりもしていた。
本題。数年前にタイのライダーたちがMFJ-GPに参戦した時だ。大会が終わった後ちょっとした打ち上げの食事会というか酒席が設けられて、そこでアランチャイ選手のお父さんからこんな質問を受けた。「ウチのアランチャイを下田みたいにするにはどうしたらいい??」アランチャイ君のお父さんはタイ語しか話せない。間に片言の英語通訳が入ってボクは更に片言の英語で答えるわけで、しかも子育ての話でもあるわけだ。お酒も入っていたし、そんな難しいことを聞かれても、簡単に答えられる内容ではない。でも何かを言わないと。ボクの口から出たのは「ジョンディアを買え。」だった。
John Deereとはアメリカ製のトラクター。通訳をしてくれたアップル君も当然「キダ、ジョンディアって何だ?」と聞いてきた。「キダは大型トラクターが必要だと言っている。」と伝えてくれたんだと思う。元々強面のアランチャイ君のお父さんの表情が、ハァ?? ってなったのを覚えている。ボクの英語をアップルがタイ語に通訳して、伝わるかなぁと思いながら、酔った勢いでこう続けた。
「世界のモトクロスでアメリカが圧倒的に強かった時代があったよね。スーパークロスのテクニックをアウトドアに応用して、華麗なライディングで世界を圧倒した。それに対抗してヨーロッパが何をしたかというと、ブルドーザーで深く掘り返して更にトラクターでコースを耕して路面を柔軟に荒らした。レース中にギャップもラインもどんどん変化する。この変化への対応に戸惑って、ここ数年はアメリカが勝てない時代になった。代わって台頭したのがフランスやオランダ。ベルギーのライダーたち。ヨーロッパのライダーたちは、ヨーロッパ選手権に参戦する前に、オランダやベルギーに長期滞在して、サンドプログラムと呼ばれるトレーニングを行っている。スペインのプラドもそう。」
「日本もそうなんだけど、タイのコースはどこもカチカチだよね。それだとスライドコントロールが重要で、コーナーでのアクセルはパーシャルが重視されるし絶対速度は上がらない……」この辺りで片言通訳は無理だと思って、「だからタイのモトクロスにはジョンディが必要だと思う。」と締めくくった。
去年の2月、「ウチのホームコースでタイ選手権が開催されるのでぜひ来てくれ。」とアランチャイ君のお父さんから招待されてタイ・ムクダハーンに出向いた。コースに着いて最初に目に飛び込んで来たのがジョンディアだった。ヤベェ、本当に買ったんだ。いや、大型トラクターの意味で言ったんで、コレじゃないんだけどなぁって正直思ったけど、大枚使わせてしまったかと思ったらそんなこと口に出せない。

元々の土質だったり頻繁にスコールがあったりするから、コースのメンテナンスは一概にこんなコンディションでとはいかない。それでも息子やタイのライダーのために、少しでも世界の隆盛に近づこうとアプローチしてくれたのだ。
The 2025 Monster Energy FIM Motocross of Nations Ironman Raceway US。日本代表チームは下田 丈選手が450でも世界トップレベルの実力を存分にアピールしてくれた一方で、大倉由揮、中島漱也両選手は路面コンディションの変化とスピードに対応出来ずに、またしても大きな苦戦を強いられた。二人とも日本では間違いなく最速最強のライダーだ。しかし、世界のトップからはラップタイムで10秒以上遅い。それが現実なのだ。

全日本のトラックも専任のコースビルダーがメインテナンスを行うようになって、路面コンディションは以前と比べて大きく変わってはいる。しかし、タイトなコース幅、そもそも敷地面積が狭いことなど制限は少なくない。それでも全レースのスタート前に2コーナー進入まで、せめて1コーナーの立ち上がりまで掘り返し作業を行うことは可能なハズだ。ちなみに今回のIronman Racewayでジェト・ローレンスがマークした平均速度は54km/hオーバー。先の全日本名阪での大倉の平均速度は約46km/hだ。積極的に海外でのトレーニングやレースに取り組んできた大倉、中島だが、世界のトップスピードとの差は歴然とした開きがある。
出場37ヶ国(内2チームはエリア混成)中10位での予選突破。国別総合成績11位という結果はもちろん日本代表チームの飛躍の証明だ。しかし世界のトップとは依然として大きな隔たりがある。何より重要なのは日本国内のモトクロスの環境改善とレベルアップへの取り組みに他ならない。日本モトクロス界の将来見据えた新たなアプローチをスタートさせるのは今だ。